『ビタミンC摂取量の少ないイヌイット』

さまざまな調査において、エスキモーと呼ばれる北極圏のイヌイットの中で、伝統的な生活をしていた人々は、ビタミンC摂取量が少ないとわかっています。

しかし、ビタミンCの摂取量が少ないにもかかわらず、基本的に彼らには壊血病のようなビタミンC欠乏症が見られません(ただし、一部で症例あり)。

15世紀の中世ヨーロッパでは大航海時代を迎え、船員たちの間でいわゆる壊血病が流行していました。18世紀、イギリスの海軍軍医であるジェームズ・リンドはこの壊血病の原因は食事の違いであることに着目し、「すべての乗組員に果物を」と提言しました。この対応により、船員たちは回復していきました。壊血病とビタミンCの関係が医学的に証明されたのは、さらに後になっての事でした。

さて、イヌイットが住む北極圏のような風土では、ビタミンCを蓄えている野菜や果物はそうありません。ベリー類が土地によってはあるようですが、年中あるというわけではありません。動物性食品にもビタミンCは含有されていますが、一般のビタミンC必要摂政量を満たすには、ちょっと少なすぎます。

では、なぜ中世の船員に壊血病は起こり、イヌイットには発症しないのでしょう。

まず、その理由は航海時代の船員とイヌイットの食事の内容の違いにあります。当時、壊血病を起こした船員らの食事は、砂糖で甘くした水粥、羊肉スープ、マフィン系のプディング、大麦、レーズンビスケット、米、スグリなど炭水化物中心の内容でした。一方、イヌイットはカリブー、魚、シール肉、ウサギ、ホッキョクグマ、鳥、卵といったような食事で、脂肪やたんぱく質中心であり、炭水化物の摂取はとても少なかったのです。

ビタミンCを効率的に取り込むポンプ役の糖輸送体(GLUT)は、すい臓から分泌されるインスリンが細胞にある受容体にくっついてはじめて細胞の表面に出てきます。こうしてビタミンCを受け入れる体勢になるのです。

ここでビタミンCの取り込みを邪魔するものがブドウ糖です。ビタミンCとブドウ糖の構造に類似性があるせいか、ブドウ糖はビタミンCを阻害しこのGLUTを通って細胞内に入り込んでいくのです。

このようにビタミンCとブドウ糖によるGLUTで競合があるため、体が求めるビタミンC量を取り入れるには、大量のビタミンC投与が必要になってきます。

しかし、イヌイットのようにブドウ糖をほとんど摂取しない人はビタミンCがブドウ糖と競合することはあまりありませんので、着実に細胞内に取り込まれます。また、尿細管によるビタミンC再吸収も推測できます

よってその場合はビタミンCの摂取量が少なくても健康に生きることができるのです。(とはいえ、真似しないでくださいね!)

さらに、ブドウ糖(高血糖)は、ビタミンCのこの取り込みを阻害するだけでなく、ビタミンCによってできる細胞性免疫系(食細胞)の活性を阻害します。この阻害により病原体を撃退する能力が弱まってしまいます。 次に、腸内細菌によるビタミンC合成説です。

つい、最近ですが、コリネバクテリウム・グルクロノラクトンのような腸内細菌がビタミンCの合成をし、体内に供給できるという論文が発表されました。ただし、この腸内細菌がイヌイットに存在するとは限りません。

まだはっきりとした解明はされていませんが、このようにイヌイットは少量のビタミンCでも壊血病を起こさず、健康体を維持していました。

私たち現代人はイヌイットではありませんし、少量のビタミンCというわけにはいかないかもしれません。また、ビタミンCはさまざまな症状にも効果的であることがわかっています。 日本は昔から比較的野菜などの植物性食品が多い国ですので、日本人が壊血病になったという事例は多くはありませんが、やはり積極的に摂っていくのが良いでしょう。

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WRITER

吉冨 信長(よしとみのぶなが)

1977年生まれ (株)コミディア代表取締役 栄養カウンセラー、分子栄養学セミナー講師、日本脂質栄養学会会員、日本微量元素学会会員

2000年東京理科大学卒業後、SE業界へ。
SE業界を引退後、2007年青果業界へ転職し、2013年から食と栄養に関する健康情報をSNS等で日々発信し、講演会やセミナーではいつも満員となる人気講師に。

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