『ヒトがビタミンC合成能を失ったわけ』

ビタミンCを体内で合成できない代表的な動物は、ヒト、サル、モルモットです。

※ただし、本当に合成能が0(ゼロ)なのかは、まだわかっていません。もしかすると、微量で合成されているかもしれません。ここではビタミンC合成能を失ったことを前提に、話をすすめていきます。

さて、ヒトがビタミンC合成能を失った理由として、定説(仮説)では、

「果実などをはじめビタミンC食品が簡単に得られるようになったから」

「脳の拡大とエネルギー消費にともない、ビタミンCの原料であるブドウ糖を優先したため」

などさまざまです。 ある調査では、ゴリラは1日に4~5グラムのビタミンCを生息する森から摂取しているそうです。初期のヒトも1日に2グラム以上は摂取できていたという推計もあります。

ビタミンCは言わずもがな植物性食品に多く含まれるビタミンです。厚労省によるビタミンCの一日の推奨摂取量は成人で約100mgです。たとえば、ピーマンなら約1袋(150g)食べれば厚労省の推奨摂取量100mgが摂れます。

これらをきちんと食べるには意外と結構な量ですし、加熱する場合はもっと食べる必要があります。

しかも、毎日食べるのは結構大変です。さらに 野菜をはじめとした植物性には「旬」というものがあり、食用できる植物には必ず端境期(はざかいき)が訪れ、季節の変わり目をはじめとした時期によっては、全く摂取できないことも自然界ではありえるのです(生息地にもよります)。

現代は、農作物がたくさんあり、南から北までの産地リレーやハウス栽培、輸入食品などを通して年中食べることができますが、自然を相手にした本来の生態系ではビタミンC不足に陥ることが少なくないはずです。

分子栄養学や栄養療法では1グラム以上の摂取を目標とすることが多いです。レモン50個以上です。これは実に不自然だと思いませんか。(自然界の中では不自然だけど、生化学的には、というよりは現実的には、私も1日1グラム以上の摂取をすすめています)

また、脳の拡大による説ですが、これは矛盾が多いです。

サルはヒトと同じくビタミンC合成能を失っていますが、脳化指数はヒトのように高くはありませんし、イルカは脳化指数がヒトに近いぐらい高いですがビタミンC合成をしています。

で、これは私の仮説ですが(今のところの)、ヒトはビタミンCを生理的にはさほど必要としなくなったからではないかと思います。ただし、ビタミンは多くとると生理作用以上の働きをし、つまり薬効的に働きますので、あくまで生理作用の範囲内の話です。

たとえば、亜鉛にはビタミンCの節約効果があります。これは日本人の研究者が発表しています。亜鉛が生体内に充足していると、ビタミンCの必要量が減ることをいっています。

ビタミンCを自然界で必要量摂取するのは困難ですが、亜鉛はさほど難しくはありません。

また、別の研究で、風邪に対する亜鉛とビタミンCのそれぞれの効果の比較研究があります。結果、亜鉛はビタミンCとは比べ物にならないほど風邪に効くことがわかっています。

亜鉛はビタミンCとは異なり、ウイルスを直接殺す効果があります。さらに、亜鉛は免疫応答も刺激し、感染の早期終結をもたらします。つまり、感染に関しては、ビタミンC量が少なくとも、亜鉛の充足によって、解決できることを示唆しています。

体内にはビタミンCよりも抗酸化力の強いものが多く存在します。SOD酵素はビタミンCの約3,500倍あります。ヒトはSOD酵素の活性が極めて高い動物です。

他、アスタキサンチンはビタミンCの約65~1,000倍、ビタミンEはビタミンCの約5倍、メラトニンはビタミンCの約10倍です。 脂質過酸化の連鎖反応をストップするには、まずビタミンEが働きます。そしてラジカルとなったビタミンEを還元するのはビタミンCだと教科書では教わります。

しかし、実際には、ビタミンCがなくとも、ユビキノン、グルタチオン、NADPHがそこにあれば、それぞれが直接、ラジカル型となったビタミンEを還元することができるのです。

アフリカのマサイ族遊牧民や伝統的なイヌイットは植物性食品を摂取する機会がほとんどありませんので、血中のビタミンC濃度はかなり低いですが、壊血病を患うこともなければ、いたって健康体です。

なぜなら、ビタミンCはブドウ糖と代謝経路において競合するため、ブドウ糖摂取が少ない彼らはビタミンCを細胞内に効率的よく取り込むからです。

ビタミンC摂取機会が少ないと、尿細管でビタミンCは再吸収されるため、全ては排泄されない仕組みになっています。

ビタミンCは遊離鉄と反応すると、フェントン反応をおこし、猛毒のヒドロキシラジカルを生成してしまいます。がん細胞を倒すのにこのヒドロキシラジカルを武器として戦えますが、昔の人はほとんどガンがなかったといえますので、正常細胞には猛毒となってしまうヒドロキシラジカルをつくるビタミンCを、生体は進化的に避けていたのかもしれません。

以上はビタミンCの抗酸化作用の面だけで判断したもので、では、コラーゲン生成はどうなるのか?他の代謝で使われる分はどうなるのか?という疑問についてはまだ答えができていません。

しかし、わたしは伝統社会(狩猟採集民、遊牧民、農耕民)を見てきた中で、ミネラルを充足している感じはありましたが、やはりビタミンCを必要用量摂取している民族はあまりないと感じました。

ヒトがビタミンC合成能を失った理由は、外部から簡単に獲得できるようになったから、ではなく、もしかすると、足りなくても他の酵素やミネラルで解決できたから、というのが答えかもしれません。もちろん、これについては、いまだ謎です。

あくまで、これはコラムですので、現代人はやはり現実的に1日1グラム以上を目標に摂取した方がいいと思います。

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WRITER

吉冨 信長(よしとみのぶなが)

1977年生まれ (株)コミディア代表取締役 栄養カウンセラー、分子栄養学セミナー講師、日本脂質栄養学会会員、日本微量元素学会会員

2000年東京理科大学卒業後、SE業界へ。
SE業界を引退後、2007年青果業界へ転職し、2013年から食と栄養に関する健康情報をSNS等で日々発信し、講演会やセミナーではいつも満員となる人気講師に。

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